これは言ってはいけないことだろう。でも敢えて言わせてもらうとぼくはNyanSATがよかった。しかし、プロジェクトの総意でNyansSATは没になってしまった。悲しいがこれには奥歯を噛みしめて受け入れなければならない。
ミッション候補が決まったリーマンサットの次のステージは、3つのミッション案ごとでグループに分かれ、それぞれで「必要なこと」を詰めていくことだ。NyanSATへの思いを心の中にしまいつつ、ぼくはToothSATチームに配属となった。
・ToothSATとは具体的になにをするか、ミッションの目標は?
⇒乳歯をなるたけ高く飛ばすことができれば、とりあえず成功
・このミッションはどんな特徴があるのか、なんの役に立つのか?
⇒1. これまでにない高さに乳歯を飛ばし、永久歯を丈夫にできる(はず)
2. 乳歯の投擲距離でギネスに載れる(かもしない)
・ミッション衛星の仕様は? 電源、構造、通信方法は?
⇒打ち上げることだけを目標にすれば電源も通信もいらない
・資金はどうする、どうやって集める?
⇒子供の永久歯を丈夫にしたい親たちから巻き上げる、歯医者さんとコラボするなど
・打ち上げ後の運営は? 地上との通信局は?
⇒このミッションにそれ必要なくない??
とまあ、これらはその場で出た意見で、これから、ToothSATとしてよりよいミッション内容はないのか、どんな部品が必要か、お金はどれくらいかかるのか、そしてリーマンサットの大きな目標である「たくさんの人を巻き込む」にはどうすればいいのか。具体的なことを一つ一つ決めていかなければならない。
これまでのリーマンサットは、ただ夢を語っていればよかった。たくさんの人を巻き込みたい、世の中を楽しませる人工衛星を作りたい、宇宙開発を盛り上げていきたい。ぼくらにはやりたいことや理想がある。けれど、これらはあくまでも「ぼくらの考え」でしかない。ただ頭の中に浮かんだことを伝えていただけだ。
しかし、今や空想だけではなく現実に着手していく段階にきたのだ。
プロジェクトの進展をうれしく思う反面、現実を見て行かなくてはいけないことに不安を感じてしまう。
そもそもぼくらは宇宙開発に関しては素人の集団だ。いろいろな人が集まっていて、どんなことができるのか、なにが足りないないのかすらわからない。
逆に言うと、新しいステージである「技術調査」は、できること、足りないことを一つ一つ洗い出して行くことなのだ。
歩みとしては微々たるもので、専門家からすれば「お前ら、そんなこともわからねーのかよ」と言いたくなるかもしれない。
だが、ぼくらの目指す「誰でも宇宙開発に関われる」プロジェクトには、基本的なことを一つ一つ調べて、誰にでもわかるよう明らかにしていくことが必須だ。
本当に少しずつではあるけれど、ぼくらは進んでいる。