「宇宙開発に関してはほとんど素人のサラリーマンたちが集まって2年以内に人工衛星を打ち上げる」
これを聞いた人の大半は「こいつらはバカなんじゃないか」と思うことだろう。何を隠そう、プロジェクトを実際にやっているぼくもその一人である。プロジェクトメンバーたち本人が「これはクレイジー」という思いを抱きながら、2014年11月23日、東京ビッグサイトで行われたメイカーフェアの一角で「リーマンサット・プロジェクト(仮)」のお披露目とキックオフが行われた。
リーマンサットとは「Salaryman Satellite」の真ん中らへんを抜き出したことが由来で、その名の通りそんじょそこらに転がっている普通のサラリーマンたちで知恵を出し合って、人工衛星を作成、打ち上げまでを一貫して行うことを目的としたプロジェクトだ。そしてこれも冒頭に書いたとおり、この日がキックオフであり、現時点では決まっていることなど何一つない(そもそもお披露目とキックオフが同時に発生すること自体まずおかしい)。出だしからしてこんな状態なのに、本当に2年で衛星を打ち上げるなんてことができるのか、と思わないではいられないのだが、話としては実はそう難しくはない。
「人工衛星」というと、宇宙ステーションや気象衛星ひまわりのような、国家が扱う、「民間とはほど遠いもの」としてイメージしてしまうが、ぼくらが扱うのは、10cm四方の超小型衛星である。そして、宇宙への打ち上げについてはどこかの機関に委託する。ぼく自身もこのプロジェクトに参加する前は「衛星を打ち上げる」というのはなにやら壮大な手順が必要、つまり「人工衛星を設計・開発」し、「宇宙へ行くためのロケットを製作」し、「打ち上げ」なくてはいけない、のだと思っていたけれど、現在は世界的に宇宙開発が民間の市場に開放され、いくつかの衛星を集めて一つのロケットに相乗りさせてもらうことで、気軽に打ち上げることができるのだ(もちろん、打ち上げ先を探し出すことならびに載せてもらうための手続き、そしてある程度の費用は必要である。ちなみにJAXAだと安くて3~400万円程度)。
世間のイメージとしては未だに「宇宙は遠いモノ」として扱われてしまう。日本はおろか、世界の各国で宇宙開発事業費が削られてしまっている風潮もある。しかし、21世紀となった今や、実は宇宙と関わることは手の届かないものではないのだ。ぼくらの大きな目的の一つは、「地球と宇宙の距離を縮める」ことにある。日本では会社ならまだしも、会社でもない個人の集まりが人工衛星を打ち上げたなどという前例は未だない。けれど、「人工衛星の打ち上げ」は、先ほど書いたとおり案外簡単に実現可能なはずである。このプロジェクトを成功させることができれば、民間の宇宙開発にとっても大きな促進力となり、ひいては人と宇宙を近づける一助となり得るのだ。
とはいえ、実際に日本の民間が衛星を打ち上げた実績などほとんどないし、打ち上げまで漕ぎつけたとしても数百万円の費用はかかる。それに各メンバーは普段は本業である宇宙開発とは異なる仕事を持っている(ちなみにぼくはライター・編集の仕事をしている)。資金も実績もマンパワーもないぼくらが目標を達成するのはとても困難なことだと思う。でも、そこまでしてこのリーマンサット・プロジェクト(仮)を立ち上げたのはなぜなのかと問われれば、それは「宇宙への憧れ」に他ならない。宇宙に行ってみたい、宇宙から青い地球を見てみたい。子供の頃から惹かれてやまない、けれど実際に手を伸ばすには遠い遠い存在である宇宙には、大人になった今でも言われもない魅力がある。メイカーフェアでは来場した方や他の出展者の方たちからも「ずっと宇宙への憧れはあったけれど、全く関わることがないまま年を取ってしまった」「大学時代はロケットの開発や宇宙工学を学んだけれど、就職してからは宇宙との関わりはなくなってしまった」「宇宙に興味はあるけれど何をしてよいか全然分からず、関わる手段をずっと探していた」などなど、ぼくらと同じく宇宙へ憧れている人たちからたくさんの声を聞いた。なにより、ほかならぬぼくらが宇宙に関わりたくてたまらないのである。
という夢と情熱は一杯の「リーマンサット・プロジェクト(仮)」であるが、現時点では、夢と情熱以外は何もない、といったほうが正しい(「今はどのくらいまで進んでいるんですか?」と聞かれたとき「まだ一つも決まってません」としか言えず、恥を通り越してひたすら開き直るしかなかったというのはここだけの話である)。だが、今はキックオフの段階であり、実績はこれから一段一段、階段を上るようにして作っていけばいいのだ。幸い今回のキックオフで、多くの人が話を聞いてくださったり、賛同してくださったりしたことから、このプロジェクトが社会から興味を持ってもらえる、価値のあるものであることがわかった。もし最終的に失敗したり、上手くいかなったりしたとしても、ぼくらがこのプロジェクトを進めることで、宇宙と人を繋げることに一役買うことができるものであることは確かだと思う。それに会社でのプロジェクトとは違い、リーマンサットで失敗してもリストラにあうことはないのも安心材料の一つだ。「2年で素人集団が人工衛星を打ち上げる」という大風呂敷を広げるだけのキックオフではあったけれど、大言壮語で終わらないためには、そしてぼくらが少しでも宇宙に近づくためには、しっかりと目標を達成しなければならない。
「打ち上げる衛星にどんな価値を載せるのか」これを決めることがぼくらの次の、いや一番目の仕事である。