「nextクリエイターズ」(日本テレビ・7月2日木曜夜10時54分~)で紹介された「トレンディーな人工衛星」こと、リーマンサット・プロジェクトの超小型人工衛星『RSP-01』。
宇宙空間で「自撮り」をするミッションを達成するために各開発担当がこだわってきたこと、みえてきたものはなんだったのか。開発リーダーたちへのインタビューの第2弾。今回は、電源系リーダーの今井さんに開発でのこだわりや想いについて、お話をうかがいました。
<Interview & Text: Kaitos(カイトス)技術広報課&RSP-01>
【RSP-01 電源系リーダー 今井 尭之さん】
--今井さんがリーダをされているチームはどういうことをしているのですか?
今井 私の担当は、人工衛星の中で電気を作って、溜めて、必要な機器に供給する「電源」系になります。電気がないと人工衛星は何もできませんので、電源系は必要な機器に安定して電気を供給することが重要になります。
また、電気を溜めるリチウムイオン電池は、非常にたくさんの電気を溜めることができるのですが、溜められる電気が多い分、下手に扱うと発火・爆発する非常に危険なもので、JAXA(宇宙航空研究開発機構)の規定でも非常に多くの厳しい要求が課されています。
--そうなんですね。リチウムイオン電池は、国際宇宙ステーションをはじめ、世界の多くの人工衛星の電源として使われていますし、スマホとか身近な電気製品にも使われていて、扱いが難しいという感覚はありませんでした。では、なぜRSP-01にリチウム電池を使おうと思ったのでしょうか。
今井 RSP-01は、「自撮り」を行う人工衛星ということで、自撮り機構や姿勢制御用の機器など、他の10センチメートル角の人工衛星(通称キューブサット)と比較して、多数の機器を搭載しています。そうすると必要とする電気も多くなるからです。
--そしてバッテリーに溜める電力をつくる太陽パネルも電力確保に欠かせないと思いますが、超小型のキューブサットでは外側6面を太陽パネルでできるだけ覆うことで、電力確保しているモデルが多いと思います。でも、RSP-01では自撮り機構がついた面には太陽パネルを貼ることができませんよね。この点で難しかったことはありますか?
今井 最初はシリコン系の太陽パネルで検討していたのですが、いざ衛星に組み上げて太陽光を当てて発電してみると、必要な電力量を得られないことが分かりました。そこで急遽、より発電量の多い化合物系の太陽パネルに変更しています。
--RSP-01の電源系のこだわりやポイントはなんでしょうか?
今井 まず、搭載した多数の機器が必要とする電気を「安定かつ安全に確保」し、かつ「たくさんの電気を供給する」という、両立の難しい要求を満たすことです。さらに、その厳しい要求を10センチメートル角というサイズに収めたことがポイントかと思っています。
--人工衛星のまさに心臓部分でもあるわけですよね。特に「自撮り」のための機能で大変だったエピソードはありましたか?
今井 自撮り機構や姿勢制御用の機器は、動作に多くの電気が必要になるので、必要な電気を安定して供給できるようにするところに苦労しました。具体的には2系統のリチウムイオン電池から、並列で電気を供給できるようにしました。こうすることで、1系統だけのときよりも負荷を分散でき、より多くの電気を出力できるようになりました。また万が一、片方の系統で電気を出力できなくなっても、最低限の衛星の活動は継続でき、衛星の冗長性(必要最低限に加えて余裕のある状態)も上がりました。
--必要な電気を「安定かつ安全に確保」し、かつ「たくさんの電気を供給する」という難しい要求を満たすために、どのような試験を行うのですか?
今井 まず、電源系で作成した電源基板が設計通りに動くか試験します。例えば、
・太陽パネルから所定の電気が発電できているか
・太陽パネルからリチウムイオン電池に充電できるか
・リチウムイオン電池から所定の電気を出力できるか
・各機器への電流量が測定できるか
など様々な機能を試験します。
他には異常時の動作確認です。
例えば、出力をわざとショートしたときに、きちんと電気の出力が止まるかなどです。各機器に異常が起こったときには、電気の供給を止めないと、最悪の場合、発煙・発火などの危険があるため、かなり重要な試験になります。
一番緊張した試験は、リチウムイオン電池の安全試験ですね。電池の中にも安全装置が入っているので、ショートしても出力が止まるようになっているのですが、この安全装置がうまく動かないと、爆破して大事故になるかもしれません。
もちろん安全装置が働いて、きちんと出力が止まることは確認できたのですが、皆さんは絶対に真似しないで下さいね(笑)。
--今井さんは普段大阪から参加されていましたが、電源系のメンバーとはどんなふうに一緒に作業していたのでしょうか?
今井 ハードウエアという性質上、モノがないと作業を進めることができないので、遠隔での参加は難しい部分が沢山ありました。例えば電源基板を衛星として組み上げてみるとうまく動かなかったときなど、工場での作業が必要なときは東京のメンバーに見てもらったりしました。
--今井さんは普段どういうお仕事をされていて、それがどう「電源系」としての活動につながったのでしょうか。
今井 普段の仕事は、いわゆるシステムエンジニアをしています。電源基板はプログラムを搭載せず、ハードウエアだけで動いていますので、仕事でやっていることとは別世界の技術分野になります。仕事にはつながっていませんが、違うからこそ、趣味として楽しめたところもあると思います。
--今井さん、時々、大阪から工場にいらしていましたよね。趣味なのに大阪から江戸川まで飛んでくるエネルギッシュさとフットワークの軽さに吃驚しました。
また、飛行神社のお札を持ってきてくださったのも覚えています。このお札は、航空安全だけでなく開発発明祈願も込められているとききました。今は大事に工場の神棚におかせていただいていますが、RSP-01も無事、すべての物がキューブのなかに収められて打ち上げを待つばかりです。あとは宇宙で電源が入って地球のまわりを飛ぶのが楽しみですね。打ち上げや衛星放出の際にもぜひいらしてほしいです!
今井 遠隔からの参加で、なかなかメンバーに会うことができなかったので、打ち上げや衛星放出の瞬間は、メンバーのみんなと一緒に立ちあいたいですね。
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そのまた未来へ、RSP-01プロジェクト、まだまだ新たなチャレンジを続けています!
ただいま運用メンバーも募集しています。参加についてはこちらから。
次回は、自撮り衛星RSP-01の愛称「Selfie-sh」について、プロジェクト・マネージャーの伊藤さんにお話をうかがいます。おたのしみに!
【この記事を書いたメンバー】
鬼頭佐保子
広報部 技術広報課長、技術部RSP-01プロジェクトC&DH系、rsp.横浜支部長。
趣味は宇宙開発、宇宙教育、星空案内、美味礼賛。7つの海を渡るのが夢。