宇宙空間で「自撮り」をする、リーマンサット・プロジェクトの超小型人工衛星『RSP-01』。
「自撮り」をするミッションを達成するために各開発担当がこだわってきたこと、みえてきたものはなんだったのか。開発リーダーたちへのインタビューの第3弾。
熱・構造系、C&DH系、電源系の開発リーダーたちに続き、今回は、プロジェクト・マネージャーの伊藤さんに「自撮り」するミッションに対するこだわりや想いについて、お話をうかがいました。
<Interview & Text: Kaitos(カイトス)技術広報課&RSP-01>
【RSP-01プロジェクト・マネージャー 伊藤 州一さん】
--伊藤さんは、RSP-01のプロジェクト・マネージャー(PM)ですが、そもそもPMとは何をしているのでしょうか?
伊藤 一般的には、複数のメンバーをまとめてプロジェクトの円滑運用や進行管理を行い、成功に導くのがプロジェクト・マネージャーです。
--おお、それだけ聞くと、もはや趣味ではなく、かなり重たい任務を背負っているように聞こえます。RSP-01のPMとしてのこだわりやポイントはなんでしょうか?
伊藤 リーマンサットという団体の性質上、メンバーの流動性が高く、まずは開発の開発の課題に対応頂けるメンバーを見つけるのがポイントかと思います。
あと、あくまで「趣味で宇宙開発」が前提ですので、楽しい雰囲気づくりとか、休日に集まった際に些細なこと(部品が足りない、工具がない等)で作業が止まらないよう事前に想定して対応していました。
--確かに工場には何でもそろっているというイメージです。ねじ一つでも「ここは何番のネジの方がいい」という時に既にネジ箱にいろいろなネジがそろっていましたし、手を動かすときに「こういう時にはこの工具を使えばいいんですよ」と伊藤さんからすっと渡されましたのを覚えています。やってみようかなと思った時に、モノや道具はそろっていることって普通ないので、すごく稀有な環境だなと思っていました。
そしてリーマンサットの開発で面白い、そして「らしいな」と思うのは、一般的にはPMはプロジェクトの元締め的に一人いるのが普通だと思うのですが、リーマンサットではPMもやりたい人がいればやれると複数いることです。もう1人のPMである三井さんとはどのようにタッグを組んで、役割分担をしていたのですか?
伊藤 最初の質問でPMとは何か?という問いがありましたが、その観点からだと厳密にはPMチームの一員でしょうか。伊藤の役割としては企画立案及び兵站担当(?)なかんじですので。
--複数のメンバーをまとめてプロジェクトの円滑運用や進行管理を行うのがPMですよね。伊藤さん、毎日会っているわけでもないのに仕事でもないのに、メンバー一人一人に気をかけて、メンバーがやりたいことをできるだけやれるように環境を整えてくれていました。そんな有難い居場所を三井PMと伊藤PMがそれぞれの視点でつくってくれて、それが成り立っているというのは普通の会社でもないなと思います。伊藤さんは本業でもPMをされているんでしょうか? 普段どういうお仕事をされていて、それがどうPMとしての活動につながったと思いますか?
伊藤 普段は、IT関連企業でシステムエンジニアとして働いています。が、それをリーマンサットとして活かせるよりも、リーマンサットでの経験を仕事に適用させてもらっていることの方が多い・・・かな。(苦笑)
--特に「自撮り」のための開発で大変だったエピソードはありましたか?
伊藤 1Uサイズ(10×10×10センチメートル)に全ての機能を納めなくてはならないため、自撮り機構自体のスペースの捻出と、捻出されたスペースに収まる機構の設計です。特にアーム機構の小型化については、非常に難航しました。
--とにかくアームについてはいろんなデザインや試作機が多かったですよね。「自撮り棒」であるアームが宇宙でも伸びたり縮んだりするのを想像すると楽しいですし、開発途中にネジがバラバラになっていた過程ですら次はどうするのかなと、傍からみる側はワクワクしながら開発をみていました(笑)。宇宙で使う「自撮り棒」の開発!ですもんね。設計や耐性試験も本当に大変ですよね。
伊藤 設計は本当に大変でした。かっこいい超小型人工衛星を自撮りするわけですので、チームのプロダクト・デザイナーや筐体の設計担当者、加工担当者と何度も議論しながら試作品をつくり、設計をしなおしていました。また、モーターや制御回路は市販されているものを使用していますが、アームの伸縮機構部品は全て新規に設計したうえで、業者さんに特注しています。見積金額をみて一瞬「う・・・」となりましたが、宇宙に行くための必要経費!と割り切って発注しました。RSP-01の中で高価な部品TOP3に入ります。
また耐久性については真空チャンバー内にて約3,000回の伸縮テストを行うことで担保しています。
--そして「自撮り」といえば、カメラです。RSP-01では、マイコンRaspberry Pi用のカメラを使うことで大変だった点はどこでしたか?
伊藤 Raspberry Piとカメラは、リボンケーブルでの有線接続になりますが、アーム伸縮時にケーブルの巻取り方法をどのように処理するかが非常に悩みどころでした。また純正カメラでは、自撮りをする時に超小型人工衛星全体をフレーム内に収めるには40センチメートルほどの距離が必要でしたが、互換機の魚眼カメラを採用することで10センチメートルの距離に抑えることができるようになりました。
--その結果、コンパクトなアームの設計と魚眼レンズで幅広い画像が撮れるようになったのですね! さらにメインミッションの「自撮り」だけでなく、サブミッション大会も企画されていました。これは、「自撮り」を活かすミッションを新たに求めていたのでしょうか?
伊藤 メインとサブミッションは特に関連付けるということはあまり意識していませんでした。結果として実装されているのは「チャットボット」と「『機械学習』による画像選択」ですが、これはより多くの人に衛星運用に関わる契機が増えてほしいことと、サブミッション設定当時トレンドだった機能を取り入れたかったのが理由です。
--なるほど・・・実は私も大会に応募しました。技術的にできるかどうかは関係なく、自由なアイデア応募してみようと思い、確か、RSP-00とRSP-01が宇宙で交信したり、RSP-00の写真をとるとか。
伊藤 残念ながら採用に至らなかった案についても、発案者の方には経緯の説明を行いましたよね。
--はい、技術的には難しい理由を丁寧に説明頂きました(笑)。そしてRSP-01の船出としてでてきたコードネーム 「Selfish」! プレゼン資料をみると、「Selfish」(ワガママ)と「Fish」(魚)をかけあわせた、かわいい魚ですね! でも、なぜ「Selfish」(ワガママ)なんですか?
伊藤 「自分達の作ったものが宇宙で動いているのを見たい!」というのがRSP-01の開発の動機です。なのでミッションが成功しても科学への寄与とかありません。いわば自分達の(いい意味での)わがまま≒Selfishを体現したものになります。
--わがままという意味のselfishと比較してegoistという言葉を対比させてるところにこだわりを感じるのですが、どう違うのでしょうか?
伊藤 egoistは『他人の不利益を省みず、自らの利益だけを追求する人』のことです。RSP-01の超小型人工衛星は、メンバーみんなでつくりあげているので、そんな人は存在しません!
--そしてコードネームも改めて公募しましたよね。選考委員会による厳正な審査のあと、たしか愛称「Selfie-sh」になりました。スペリングだけ変わった、という感じですが、その心は?
伊藤 自撮り(Selfie)とわがまま(Selfish)のダブルミーニングとなっています。
--ワガママであるのは変わりはないと(笑)。最後にPMやってよかったとの思いのたけをいただけますか?
伊藤 趣味とはいえ「既存の宇宙開発に一石投じてやるぜ!」くらいの意気込みでやっています。ぜひ打ち上げも成功させて、宇宙からのfirst byteをチーム全員で待ちたいです!
超小型人工衛星RSP-01の真空チャンバーでの耐性試験も自前でやっているの?と思った方は、こちらの記事もあわせてお読みください!
そのまた未来へ、RSP-01プロジェクト、まだまだ新たなチャレンジを続けています!
ただいま運用メンバーも募集しています。参加についてはこちらから。
次回は、姿勢制御系リーダー米谷さんにお話をうかがいます。おたのしみに!
【この記事を書いたメンバー】
鬼頭佐保子
広報部 技術広報課長、技術部RSP-01プロジェクトC&DH系、rsp.横浜支部長。
趣味は宇宙開発、宇宙教育、星空案内、美味礼賛。7つの海を渡るのが夢。