花粉の変わりに新型コロナウイルスが飛び交うようになったある日の事である。
私のLINEに、1枚の画像が送られてきた。
それは、ある組織が秘密裏に進めてきた新たなるSPACE SUITの画像だった。
どうやら私は、SPACE SUITのモックアップを作る事になったらしい。
過去にSPACE SUITを作った経験はない。しかし、着ぐるみ職人として腕が鳴ると言うものだ。
このご時世、今後私の身に何が起こるかわからない。そこで万が一の為に、その一部始終をここに記す。
(これは基本的にノンフィクションである)
2020年4月①
今回、モックアップの土台として使用する素材は「スタイロフォーム」だ。
以前、ジオラマを作ろうと思って仕事場から貰ってきたものだ。
コスプレ用品を作る際には「サンペリカ」という素材を使う事が流行りだが、そんなものにとらわれず自由に作って良いのではないだろうか?
と言うより、新たに部材を買うと高くつくので、手元にあるもので作る事にする。
道具はGボンド(G17)と金属のヘラとカッター。
どれも身近にあるものばかりだ。
Gボンドだとスタイロフォームが溶けてしまうだろうが・・・細かいことは気にしない。薄く塗ればきっと大丈夫。
心配なようなら、発泡スチロール用ボンドを使えば溶けることは無いだろう。
えっ、ではそれを使えばいいじゃないかって?
だって家に無いんだもん。
Gボンドを素材に塗ったあと、ヘラで薄く延ばす事になるのだが、私はヘラの部分が金属製になっているものを愛用している。
面倒な時は素材を切った破片を使ってサーと塗ってしまうが、これはあまりお勧めしない。
プラスチックヘラも同様だ。
その理由は別の機会に述べるとして、一番お勧めは金属ヘラ。これだけは覚えておいてほしい。
道具の説明はここまでだ。
おっと、忘れていた。一番大切なことだ。
作業を効率的に進められるもの、それは小粋なBGMだ。
今回はコレ、「Switch On!」。歌は土屋アンナ。
さぁ、作業の始まりだ!!
2020年4月②
胸パーツを作るため、スタイロフォームをカッターでザクザク切り出す。角を切っていき、徐々に形にしていくのだ。
あらかた切り出したところで、胸に当ててみる。
ふむ、なんか微妙・・・。
改めて平面を立体に起こすのは難しい事を思い知る。
高さを出したり試行錯誤を繰り返す。ポキッと折れそうなところは、アルミ板で補強してみる。
2020年4月③
胸パーツをほどほどにして、肩パーツに取り掛かる。やはり全体のバランスを見ないことには、どうしようもない。
ざっと肩パーツが出来た。
先端や角部分を、画像に照らし合わせて丸くする。
どことなくポキッと折れそうなので、ここも裏側にアルミを貼っておこう。
2020年4月④
取りかかったのは、背中に背負うバックパック。
板を切り出し、だいたいの大きさを出して組み上げてみる。
・・・今更だが、「背負う」という事で、端から組み上げるのではなく、どのような構造にするか(組み立て順序)を考えて組み上げなければならないだろう。
先に箱にしてしまうと、肩の紐を通せなくなる恐れがある。
基本的なベースとして、形が出来てきた。
あとはベルトを固定したり、何でもいいので表面下地を接着してから、全体的に白く塗装すれば良いだろう。
サイズ的には、基本的に私がフィッテイングしながら作っているので、私サイズ(3L)になると思うのだが、誰でも装着出来るようにする為、サイズを調整出来るようにしておこう。
また、全体的に一体型として、上から覆いかぶさるようにしようかとも思ったのだが、それだと肩部分の強度がかなり強くなければいけないので、バックパックにベルトを通す、ランドセル型にした。
2020年4月⑤
さて、全体的な形も出来たし、細かいところに取り掛かるとしよう。
まずは、東急ハンズで不足部材の買い出しだ。
・・・
・・・
当然だが、コロナの影響でどこの店舗も「休業!」「休業!」「休業!」しているではないかっ!!
ネットでの購入も考えたのだが、実際手に取って肌触り等を感じてインスピレーションで素材を探したいという職人気どりが、それを許さなかった。
そんな訳で、暫くの間ティータイムとしよう。
2020年5月①
緊急事態宣言の延長が決まり、世間がざわついている。
GWも空けて、そろそろ店舗もOPENしたかと思い、出かけてみたが・・・依然休業!!
ふむ、アールグレイだけ買って帰ろう。
2020年5月②
アールグレイを飲みながらガンプラを作っていると、またしても一通のLINEが届いた。
「モック製作は順調ですか?」
その瞬間、私は不意に背中からの気配を感じた。
そう、「シャンプーをしている時に不意に後ろから感じる」あの気配だ。
おもむろに部屋の中を見渡す。もちろん監視カメラなど有ろうはずもない。
一息ついた後、LINEの返事を返す。
「順調ッス!!」
「6月末までには出来そうですか?」
「余裕ッス!!」
私は、仮組み途中のガンプラをそっと箱の中に戻した。
2020年5月③
ガンダム世界にあるモチベーションをもう一度SPACE SUITに戻す為、「仮面ライダー フォーゼ」を視聴した。
ある意味、宇宙服だ。
そういえば、私がショッカーにいた頃、ディケイドとは何度か戦った事がある。人手不足で、戦闘に駆り出されてしまったのだ。
その時に培った技術によって、今SPACE SUITを作る事になるとは、何とも面白い。
怪人もライダーも、SPACE SUIT(モック)も全て同じなのかもしれない。
2020年5月④
さて、材料が無いのに店舗が空いてないとなると、どうする事も出来ない。
これは困った。
困った。
困った・・・。
しかし、ダイソーは開いている。
なら、これで良いか・・・。
何となくそれっぽいのを買い漁った。
材料を買って来ただけでも作業は一歩前進した事にしよう。
今日も頑張った。
2020年5月⑤
ふむ・・・改めて試作物を見ると、なんか違う気がする。
土屋アンナも歌詞の中でこう言っているではないか。
「限界なんて ぶっ壊してやれ 自分の手で」
という訳で、当初の予定を変更する。
前面はデザイン通りに製作するとして、背面は絵がないので大胆に想像することにしよう。
まずは、思い切って背中を開ける事にする。
イメージとしてはエンジン噴射口、もしくは酸素タンク。
ここをカットしたら後戻りは出来ない。
プルプルプル・・・手が震える。
いや、ここは自分のセンスを信じ抜く事が成功の秘訣。
ザクッ!
もう戻れない・・・。
そのままの勢いで、腰ベルトの当たりをつけて取り出し口をカット、仮取り付け。
ベルトはダイソーで入手した旅行鞄を締め付けるベルト。
ベルト・バックル付きで100円。ユザワヤなら300~400円?なので、かなりお買い得と言えよう。
肩ベルト(ダイソー)を装着。
2020年5月⑥
肩パーツは、どことなくポキッといきそうなので、思い切って柔らかい素材で作り直すことにした。
本来なら、「ライオボード」で作る所なのだが・・・、結構高いので勘弁してもらおう。
代わりに、ジョイントマット(ダイソー)を使う事にする。
思いのほか、上手くいった。
やるな、ダイソー!
アルミ板も再利用。マットで挟む。
2020年5月⑦
土台が出来たら、それを外皮で覆う。
一昔前なら「ラリッサ」というビニール製布みたいのを貼るのだが(今はもっと薄くて丈夫なものが色々あるだろう)、さすがに高いので、壁紙シート(ダイソー)の紙ではなく布っぽいやつを使おうと思う。
それを左右作る。
2020年5月⑧
肩パーツを塗装。
白スプレー(ダイソー)で塗装。1回目は一気に塗らず、塗装垂れを防ぐために何回かに分けて塗ってみる。
乾いた後、白スプレーで2回目の塗装。
それなりに色がついてきた。
しかーーーーし!
ここにきて、塗装膜が剥がれてきたではないかっ!
どうやら壁紙シートには塗装がのらないことが判明!!!
最初のうち、試しに塗装した壁紙シートも今になって塗装が剥がれてきた!
なんてこったい!
ふむ、これは困った・・・。
塗装の食いつきが悪いという事で、試しのシートにプライマーを吹いてみた。
(プライマーとは、下地処理の塗料。本塗りの塗料が素材にちゃんと付着するようにするもの。プラモデルのポリキャップ等に塗装する場合の下地塗料だ)
乾いたのち、塗料散布。
うむ、イケル!
やはり、下地処理は大事だ。
という訳で、前回吹いた塗料を軽く削り、プライマーを吹いた後、塗料散布。
しかーーーーし!
またしても、ボロボロと塗装が剥がれてきた。
ふぅ~~~。
もう寝る。
(果たしてSPACE SUITは完成するのか……。後編に続きます)
【この記事を書いたメンバー】
宇宙服サークル Nik-Ai
風の全てが彼の歌 星の全てが彼の夢 朝日の後に起きてきて
夕日の前に寝てしまう 風が吹いたら遅刻して 雨が降ったらお休みで