宇宙空間で「自撮り」をする、リーマンサット・プロジェクトの超小型人工衛星『RSP-01』。
かっこいい人工衛星が自撮り棒となるアームを伸ばして地球を背景に「自撮り」をする、というミッションを達成するために各開発担当がこだわってきたこと、みえてきたものはなんだったのか。開発リーダーたちへのインタビューの第4弾。
熱・構造系、C&DH系、電源系、PMの開発リーダーたちに続き、今回は、通信系リーダーの木村健将さんに「自撮り」するミッションや通信機に対するこだわりや想いについて、お話をうかがいました。
<Interview & Text: Kaitos(カイトス)技術広報課&RSP-01>
【RSP-01 通信系リーダー 木村 健将さん】
--まず最初に、木村さんが開発リーダーをされている通信系とはどういうことをしているのですか?
木村 人工衛星に搭載する無線機の開発をしました。無線機は、地球上の我々が、宇宙に行ってしまった衛星と交信してコマンドを送ったりするために必須の機能です。
--衛星とコミュニケーションするために欠かせないですもんね。そんな通信系の開発でのこだわりはなんでしょうか?
木村 やはり無線機を内製したことでしょうか。普通、無線機は外から買ってきて、それで通信システムを組むことが多いと思いますが、RSP-01の開発では、無線機そのものも自分たちで作りました。
--相当苦労があったと思いますが、それでもなぜオリジナルでつくることにこだわったのでしょうか?
木村 これははやっぱりRSP-01の目玉の「アーム様」のためですね。これは通信系に限らずだったんですが、RSP-00と同じ部品だとサイズが大きくて、(カメラ付き自撮り棒となる)アームのスペースが用意できなかったので、部品サイズを小さくしなきゃいけないということでオリジナルにせざるを得ませんでした。
--さらに「自撮り」ミッションのために大変だったことは何でしたか?
木村 送信機をコンパクトに作ることですね。RSP-01はただでさえ搭載部品が盛りだくさんで、特に自撮り用アームは初期ではサイズがまだ決まっていませんでした。そのため、10センチメートル角の立方体と限られた超小型人工衛星の枠組みのなかで、どれだけアームのためにサイズを残せるか、が重要な課題でした。そういう背景もあり、無線機もなるべく小さく作ることにしました。今振り返れば、だいぶ攻めたサイズ感を見切り発車で決めていましたね!(笑)
結果としては、フリスクくらいのサイズで非常にコンパクトに完成させることができました。
(RSP-01オリジナルの通信機)
--通信系の難しさは、地球と宇宙との通信のやりとりを飛ばす前に地上で実証することだと思いますが、一番印象的な試験はどんなものでしたか?
木村 超長距離を模擬した通信試験です。衛星と地球の最長距離は、衛星が可視限界角度にあるとき、2,000キロメートル弱(稚内市から種子島宇宙センターまでの直線距離)くらいになります。RSP-00では富士山山頂と工場間で試験していましたが、それでも距離は100キロメートルから200キロメートルくらいです。距離があるほど電波は弱まるので、(冒頭のプロフィール写真で木村さんが手に持っている)電波を弱める器具を使い、元々の電波の弱さから1兆分の1に弱めて、2,000キロメートルを通過した時と同じ弱さとなった電波を模擬して試験しました。ただ電子機器から漏れ出る電波などもあり、2,000キロメートル通過した電波だけを正しく受信できずなかなか苦労しました。
--さすがそんな超長距離な試験になるのですね。プロフィール写真で使わせてもらった写真撮影の時に、手に持っている黒いコイルみたいな器具は、電波を弱める重要な器具だったとは知りませんでした。通信系は、通信とは何かを知らない人にはハードルが高く感じます。木村さんは、普段どういうお仕事をされていて、それがどう「通信系」としての活動につながったのでしょうか?
木村 スマホの無線通信に関する仕事をしてまして、その延長で通信系を選びました。あとRSP-01に参加した当時は、通信系を担当する人が誰もいなかったということもあり、リーダーを引き受けました。通信という観点では仕事と同じ枠組みでしたが、使われるテクノロジーや通信する距離などが全然異なり、むしろ新鮮なことばかりで、仕事と趣味でやることで相互にシナジーが出る良い関係だったと思います。
--通信系メンバーも、もともと無線が得意な人が多く集まっているのでしょうか?
木村 今回の衛星通信ではアマチュア無線の周波数を使うということもあり、メンバーの半分くらいはアマチュア無線の経験者でしたが、もう半分は自分初め未経験者でした。自分もそうですが、アマチュア無線というとギークなイメージを持たれがちなので、やはり新たに人が集まりにくいところはあって、最初は苦労したところでもありますね。
--ギークなイメージですか(笑)。そうかも?そうじゃないかも?リーマンサットに入ってしまうと、超小型人工衛星とおしゃべりしたかったらアマチュア無線3級いるよ、そうなのか、じゃあとるかというノリですよね。ようやく集まった通信系のメンバーとはどのように開発をすすめていったのでしょうか?
木村 2018年後半から2019年末あたりまで、本当に毎週末、朝から夜中まで工場で作業していました。狂気ですよね!
通信系はどうしても特殊な測定器具が必要なので、完全にオンラインで作業するには、なかなかやりづらいところがあります。ただ、隔週で火曜夜に通信系でオンライン・ミーティングもして話し合ってつくりあげてきました。この1年超の議事録が残っていますが、いま読み返すと辛かった日々が思いだされます。(笑)
--それは辛そうです。仕事でもなく、趣味なのに…こんな苦労を重ねても、なぜもういいやとならなかったのでしょうか?
木村 やはり毎週末の作業後の飲み会ですかね。途中からは衛星飛ばすよりも、飲み会のために毎週末工場に行っていたような。居心地の良いコミュニティだったのがとても大事だったと思います!
--確かに本日の開発終わりとなると、飲むぞ飲むぞ飲むぞーという雰囲気でしたよね。RSP-01の開発に参加して良かったこととは何だと思いますか? また一番楽しかった思い出はこれだ、というのはなんでしょうか?
木村 良いメンバーに巡り合えたことが本当によかったです。昼からBBQやったのが楽しかったり。と言ってると遊んでばっかりみたいな感じですね。
--いえ、むしろ楽しい仲間と楽しい時間を過ごせる時間こそ大事だと思います! 特に飲み会の木村さんって本当に楽しそうでしたし。
木村 ちょっと真面目に開発で一番嬉しかった思い出を話すと、(地上の通信局から人工衛星にコマンドを送信する機能である)アップリンクの疎通がなかなかできなくて、というのもアマチュア無線の通信プロトコルってオフィシャルに規定されていなかったり、(通信機に必要な)IC部品が期待通り動かなかったり、ほかにも色々あって数か月くらい苦しんだんです。それが、やっと通った!通信できたというときはすごく達成感がありました!
--最後に次に向けての思いや楽しみにしていることを聞かせてください。
木村 打ち上げですね! ロケット打ち上げよりもメンバーとの飲み会の方の打ち上げです。あとは、やはりロケットが打ちあがった後に、RSP-01とちゃんと通信できるのかワクワク半分、心配半分ではあります。
超小型人工衛星RSP-01の通信機について、もっと知りたい!と思った方は、『トランジスタ技術』(CQ出版社)で紹介された記事も是非お読みください。
トランジスタ技術 2020年 6月号『特集「宇宙大実験!人工衛星の製作」』
Appendix10-1 AIカメラ, AIチャット・ボット,リアクション・ホイールを1U搭載
「カメラ付き伸縮アームで自撮り! Selfie-sh開発プロジェクト」
https://toragi.cqpub.co.jp/
そのまた未来へ、RSP-01プロジェクト、まだまだ新たなチャレンジを続けています!
ただいま運用メンバーも募集しています。参加についてはこちらから。
【この記事を書いたメンバー】
鬼頭佐保子
広報部 技術広報課長、技術部RSP-01プロジェクトC&DH系、rsp.横浜支部長。
趣味は宇宙開発、宇宙教育、星空案内、美味礼賛。7つの海を渡るのが夢。