メインミッションが『自撮り衛星』であるリーマンサット・プロジェクトの超小型人工衛星「RSP-01」(愛称 Selfie-sh)。ついにロケットで宇宙へ旅発つ日が迫ってきました! 2018年に旅立った「RSP-00」は日本の種子島からでしたが、2021年2月に旅発つ「RSP-01」は米国の中部大西洋地域宇宙基地(MARS, ワロップス飛行施設)から打ち上げられます。
打ち上げ予定時間(日本):2月21日(日)午前2時36分 (米国現地 2月20日(土)午後12時36分 )
打ち上げ予定ロケット:アンタレス
搭載される補給船:ノースロップグラマン社 シグナス補給船運用15号機(NG-15/ Cygnus)
シグナス補給船運用15号機(NG-15)の把持(キャプチャ):2月22日(月)18時40分ごろ(日本時間)
「RSP-01」のISSからの放出予定期間:第64次ISS長期滞在期間中(~2021年4月)
ロケットにより地球から国際宇宙ステーション(ISS)まで運ばれ、宇宙空間へ放出してもらうため、これまで数々の試験や審査を経てきた「RSP-01」。その最終審査がJAXAへの引き渡し。さらにいつどのロケットで打ち上げられるのかというという情報も秋の時点ではまだ確定していませんでした。今回は、地上最後の審査であるJAXA引き渡しのエピソードや打ち上げに向けた記者会見など、2020年秋に人工衛星が完成してから2021年2月に宇宙にデビューするまでのメンバーの心のドキドキをお伝えします。
<Interview & Text by Kaitos (カイトス)技術広報課&RSP-01>
JAXA引き渡し
フライトモデル(実際に宇宙で運用される実機)が完成してから、実機がJAXAに引き渡される日まで「RSP-01」は工場にある温度や湿度が調整された保管庫でおとなしく待機。JAXA引き渡しでは、J-SSOD(放出機構)と呼ばれる人工衛星を収める格納機構に安全に収まるかといった確認など最終審査があります。リーマンサット・プロジェクトがつくっているキューブサット(10センチ角の超小型人工衛星)はこの機構に収まるサイズに規定されています。工場で完成したフライトモデルもここでOKがでなかった場合には、宇宙へ運んでもらえません。
10月某日、ようやく三井プロジェクト・マネージャー(以下、PM)から「JAXAの引き渡し(最終インテグレーション)が決まった」との連絡がプロジェクトメンバーに伝えられました。
おお、ついに!というハイテンションな気持ちといよいよ見送りか・・・という寂しい気持ちでプロジェクトLINEチャットが盛り上がるなか、PMからはひとつ残念なお知らせが入ります。
「出来れば希望者全員でクリーンルームに入り、J-SSODに収めるのを見届けたかったのですが、新型コロナウィルス感染症拡大防止のため、4名までになりました。」
実は、リーマンサット・プロジェクトは、会社みたいに重要な会議は局部課長のみ参加といった制限がないので、普通なら上司と担当一人か二人くらいでしょというような会議でも「参加したい」と表明したメンバーがいれば、先方からダメと言われない限り、いつもゾロゾロと参加する団体ということで有名だとのこと。しかし、新型コロナウィルス感染症拡大防止のため、そのスタイルも貫けなくなっています。そこで、今回はPMと当日の審査の技術担当者以外の1名を抽選で決めることになりました。Skype抽選会やります!ということで、厳正なあみだくじによって引き渡しに参加できるメンバー4名が決まりました。
いよいよ引き渡し前夜、三井PMから「明日の案内がきました」との連絡があり、ご案内と書かれた書類をみると、そこには「セレモニー」という言葉が。え、セレモニーだったのか。じゃあスーツ?。まあサラリーマンだし。じゃあ俺もスーツでいく。え、普段スーツ着ないからどこにあるか探さなくちゃ。と、普段の恰好で最終審査にのぞむ予定だったメンバーたちの間で一気に緊張感がただよいます。
一方で、くじには外れたものの当日休暇を取得してしまったメンバーたちは、つくば宇宙センターの一般見学は予約すればできるみたいだし、ロケット広場まで「RSP-01」を見送りにいくかと応援メンバーとして行くことに。まるで海外に飛び立つ家族を空港ロビーで見送る感じになってきました。いや、打ち上げではないので、まだ早いのですけれどね。
そして当日、引き渡しメンバーは、早朝に江戸川の工場まで「RSP-01」を迎えにいき、筑波のJAXAに向かいます。2018年に飛び立った「RSP-00」の時は夏だったので車中で筐体が熱で膨張しないか等ハラハラドキドキだったとRSP-00のPMは語っていました。しかし、「RSP-01」は行儀よく涼しい顔で運ばれ、引き渡しメンバーと応援メンバーと一緒にロケット広場で合流し、記念撮影。
いつも怖いものなしにみえるPMすら緊張して手が震えるかも・・・と言いながらセレモニー参加メンバーは審査会場へと消えていきました。その間、応援メンバーは事前予約をしていた宇宙センターを見学し、「RSP-01」が放出される予定のISSの暴露パレットやアーム機構などをみながら想いを馳せます。
しばらくすると、PMから「みんなにみせたいものがあるので、ゲート入口まできて!」と応援メンバーの携帯電話に連絡があり、慌ててゲートに駆け付けると、ちょうどセレモニー参加メンバーがにこにこ満面の笑顔で戻ってくるところでした。「こちらいただきました!」とPMが掲げものは、「JAXAへの引き渡しに要求される全ての要件に無事合格したことを証明する」という証明書。
PMによると、手は全く震えず、RSP-01はぎゅぎゅっと押し込めることもなく、放出機構にもスッと入ったそうです。審査の内容や動画については公開できないのですが、引き渡しでは最終審査ということでいろいろと質問もされて、そこはさすがすごく緊張したと開発メンバーがつぶやいていました。無事に引き渡しが行われると、いよいよ宇宙への旅立ちを待つばかりです!
打ち上げ日の決定
ところが打ち上げ日については、なかなか詳細が決まりません。2018年にこうのとり7号に搭載され種子島から打ち上げられた「RSP-00」打ち上げの時も1か月前くらいになるまで打ち上げ日が発表されずソワソワしていましたが、今回は新年明けてもなかなか打ち上げ日決定の連絡がこず、メンバーはいつからカウントダウンできるかなとドキドキして待っていました。しかも、今回は日本ではなく、米国での打ち上げ。どのロケットや補給機に搭載され、いつ国際宇宙ステーション(ISS)に行くのか。
ついに1月末に、2月に打ち上げ予定のアンタレスロケットで、シグナス(NG-15)という補給船に搭載されることが決まったとの連絡があり、「RSP-01」の打ち上げとISSからの放出までをコーディネートしているSpace BD社さんとリーマンサット・プロジェクトと合同でメディア向け記者会見をすることになりました。
さて、ここからは広報の腕の発揮どころ。
リーマンサット・プロジェクトでは、外部メディア課、オウンドメディア課、rsp. 放送委員会というサークルがあり、メディアとの調整、映像等のメディアコンテンツの作成、放映技術、写真技術に興味をもち、活動しているメンバーもたくさんいます。急遽日程がきまった記者会見に向けて、各担当リーダーたちが、怒涛のごとくプレス資料や映像、記者会見の手順、機材の準備などをし、撮影のディレクション、カメラ回し、映像の編集および放映、音声などを担当するスタッフがスタジオに集結。
もちろん、ここも素人が趣味でつくりたいものをつくるリーマンサット・プロジェクトならでは。本業はメディアではないけれど、撮影も配信もやってみたいと手を挙げたメンバーからなる記者会見チームでした。そして、今回は新型コロナウィルス感染症拡大防止のため、対策をしっかりしたうえ、記者会見もオンライン配信しました。
記者会見&様々なメンバーの顔がみえるプロモーションムービーの映像はこちら!
そして宇宙へ
本当ならば、多くのリーマンサット・プロジェクトのメンバーは今頃米国にもゾロゾロいたはず。というのも、「RSP-01」のメンバーそしてリーマンサット・プロジェクトメンバーでロケット打ち上げを見にいくべく、アンタレス打ち上げ米国ツアーを昨年から計画していました。ところが、新型コロナウィルス感染症拡大のため、海外渡航ができなくなり、ツアーは泣く泣く中止に。そして、打ち上げ当日に国内でやろうといっていた真夜中のパブリック・ビューイングも非常事態宣言が出たことでできなくなりました。
それでもとことん楽しむことはあきらめないリーマンサット・プロジェクト。団体のメンバーとズーム記念写真をとりながら、打ち上げまでカウントダウンを始めました。
当日は、NASA TVで打ち上げの様子がみられるとのことなので、ライブビデオをみながら、みんなでオンラインで打ち上げを楽しむ予定です! ZoomやらClubhouseやらいろいろなメディアツールを使いながら情報発信する計画で、できるだけ多くの人が「宇宙開発ってこんな身近なんだ!」と思いながら、一緒に打ち上げを楽しめたらと思います。
きっと泣ける打ち上げライブビデオ(日本時間2月21日 午前2時から)はこちらから!
https://www.nasa.gov/multimedia/nasatv/index.html#public
旅立ちから宇宙空間への放出まで
さて、アンタレスロケットで打ち上げられる「RSP-01」は、そのまま宇宙空間に到達したらパカッと宇宙に放出されるわけではなく、ISSに物資を運ぶシグナス補給船運用15号機(NG-15) に搭載されて、まずISSに滞在している宇宙飛行士に受け取ってもらいます。その後、リーマンサット・プロジェクト以外の超小型人工衛星たちと一緒にまとまってキューブサットの放出機構から宇宙空間に放出されます。
つまり、これらの作業は、ISSに滞在している宇宙飛行士のお仕事になるので、JAXAやNASAをはじめ、ISSを運営機関が宇宙飛行士のタスクやスケジュールを調整管理しながら、担当や放出日が決まります。
そして、なんと2月21日に打ち上げられたシグナス補給船運用15号機を野口宇宙飛行士が把持(キャプチャ)を担当することが決定とのニュースが! このキャプチャ、実は日本の宇宙ステーション補給機「こうのとり」(HTV)が確立した方式で、ISSに近づいてきた補給機を宇宙飛行士がISSのロボットアームを操作して、つかむのです。うきうきしたメンバーが、なんだか嬉しい!!とツイートしたところ、なんと野口宇宙飛行士からお返事が。
メンバーの夢、そして宇宙ポストに願い事を投函してくれた皆様の夢をまず野口宇宙飛行士が掴まえてくれます!
そしてNASAの宇宙ステーション研究探査機(Space Station Research Explorer on NASA.gov)のウェブページにも「RSP-01」のイケメン筐体の姿と「自撮り」ミッションなどの情報が正式に掲載されました。
https://www.nasa.gov/mission_pages/station/research/experiments/explorer/Investigation.html?#id=8448
このページの情報によると、「RSP-01」の放出は、第64次ISS長期滞在メンバーに任命(assaign)されているので、放出も野口宇宙飛行士が担当される可能性もあるかもしれません。
https://www.nasa.gov/mission_pages/station/expeditions/expedition64/index.html
ロケット打ち上げもシグナス補給船運用15号機のキャプチャもNASA TVにて放映されますので、冒頭の情報をチェックのうえ、ぜひご覧ください。
宇宙活動デビューはこれから!
実は、「RSP-01」が人工衛星としてデビューとなるのは、ISSから宇宙空間に放出されてから30分後!
「RSP-01」がアンテナ展開及び送出した無線通信を地上局が受けて、ファーストコンタクトをとってからが運用開始となります。そして自撮りによる写真撮影、ミッションとサブミッションの実行と、いよいよ宇宙活動デビューです。
打ち上げ日と同時に、「RSP-01」運用サイトも公開しました。
https://www.rsp01.rymansat.com/
各ミッションの詳細、画像のデータ、テレメトリ情報などぞくぞくと発信する予定です。引き続き、応援よろしくお願いします!
そのまた未来へ、RSP-01プロジェクト、まだまだ新たなチャレンジを続けています!
宇宙デビューしたRSP-01運用メンバーも募集しています。参加についてはこちらから。
【この記事を書いたメンバー】
鬼頭 佐保子
広報部 技術広報課長、技術部RSP-01プロジェクトC&DH系、rsp.横浜支部長。
趣味は宇宙開発、宇宙教育、星空案内、美味礼賛。7つの海を渡るのが夢。