『自撮り衛星』リーマンサット・プロジェクトの超小型人工衛星「RSP-01」(愛称 Selfie-sh)は、2021年2月に国際宇宙ステーション(ISS)に届けられたあと、3月14日にISSから地球に向けて放出されました。人工衛星は宇宙空間で地球の周りを回り続けることだけが仕事ではありません。
わたしたち人工衛星開発者が宇宙空間で人工衛星を使って実現したいことをミッションとして背負っており、そのミッションを達成するのが任務です。90分に1回地球を高速で回りながら、地上にいる開発者&運用者とコミュニケーションをとりながらミッションを果たす「RSP-01」の本格的な活動が衛星運用によって始まります。
運用が開始されてから早くも半年、6か月!今回は、ISSから放出されてからの「人工衛星運用」についてレポートします。
< Presentation materials created by 瀧本辰一(RSP-01 通信系)、Reported & text by Sahoko Kito(技術広報課&RSP-01)>
ISSから放出:ついに宇宙デビュー!
2021年2月に米国からアンタレスロケットに搭載された「RSP-01」は、無事に国際ステーション(ISS)へ届けられたことが、野口宇宙飛行士のレポートからもわかり、メンバー一同感動でした。しかし、まだ電源オフで箱詰めのなかで眠った状態の「RSP-01」が宇宙空間に飛び出して目を覚ますのは、ISSにある日本の実験棟「きぼう」に設置されたロボットアームから放出される時です。
そして3月14日に国際宇宙ステーション(ISS)から地球に向けて放出されました!
2018年の「RSP-00」の時は、放出の瞬間にGO!サインを出すセレモニーがあり、リーマンサット・プロジェクトメンバーがぞろそろと団体で筑波のJAXAに行きました。せっかくなのでと先に筑波宇宙センターを団体で見学し、放出瞬間に立ち会うという喜びもつかぬま、「RSP-00」が目覚めて最初に地上局の上空を通過するファーストパスで最初のCWビーコン(モールス信号)を受信するため、筑波に行かなかった東京都江戸川区の地上局メンバーと、筑波の駅近くの池のまわりでアンテナを拡げて待機するメンバーとで構えて待つというお祭り騒ぎでした。
が、2021年の「RSP-01」は新型コロナ感染症がまだまだ拡大・・・。2月の米国打ち上げツアー企画も断念、カウントダウンも放出セレモニーもオンライン開催となりました。とはいえ、オフラインだと集まるにも人数制限などの制約がかなりありますが、オンラインだと逆に世界の誰もがどこからでもその瞬間をみて感動を共有できるというメリットがあるので、愉しめる限りは愉しむのがリーマンサット流。お祭り騒ぎなのは相変わらずでした。
そして、放出されて30分後にいよいよファーストパス!
「RSP-00」の時は残念ながら人工衛星の声がとれませんでした。だからなおさら、今度こそ「RSP-01」の声は絶対ききたいという思いがメンバー全体で強まっていました。かくいう私(鬼頭)も人工衛星とコミュニケーションをしたくて、アマチュア無線3級を「RSP-00」の打ち上げに間に合うようにとっていたので、その思いも2年越し。放出日に地上局のある工場で他の運用メンバーと一緒にファーストパスを待っていました。
「RSP-01」と名乗りながら歌い始めるCWビーコン(モールス信号)の音が聞こえ始めた時には、うわー!やったー!という大歓声と拍手で、肝心の受信音がかき消されちゃうよ!というくらいの感動の嵐でした(もちろん受信音は録音しています)。そして、聞こえたら終わりではなく、ここからが運用開始。「RSP-01」の人工衛星として目覚め、宇宙で働く本当の「はじまり」なのです。
90分に一度地球を回る・・・ということは、「RSP-01」かなりの頻度で毎日地球を回るのですが、日本の東京都江戸川区にある地上局の上空を通過し、地上局と交信できる時間は、毎回10分。放出日からしばらくは、HKデータ(ハウス・キーピング・データ House Keeping Data)と呼ばれる基本情報(搭載部品や機材の温度や電圧など)を取得するため、こつこつと持ち回りで運用することになります。
実は放出日にCWビーコンの音が聞こえないとか、ある日突然聞こえなくなったとかはよくあるため、放出日は徹夜でデータを取得していました。そして、CWビーコンはモールスコードなので、データ情報へのデコードという翻訳作業が必要です。メンバーの中では、耳でききとりながらデコードできる人がいて、運用の世界こそ、人工衛星と、そして宇宙と繋がっている感覚が味わえます。そして運用オペレーターとしてデビューした私にとっても、宇宙にいる人工衛星からのモールス信号の音をきき、コマンドを打って交信するなんて、なんともロマンチックな宇宙デビューです。
さて、「RSP-01」の放出日にもう一つ感動的なストーリがありました。
2018年に打ち上げられた兄貴分の「RSP-00」ですが、1年か2年くらいで大気圏に突入して流れ星になるという想定でした。通信がとれない場合でも打ち上げられた全ての人工衛星は国際機関に登録し、監視されているため、「RSP-00」がどこにいるか、そしてもはやいないという軌道情報は追尾できます。2年たっても「RSP-00」は地球の周りを飛んでいました。さすが2020年の12月頃には・・・と言われながら、新年を迎え「RSP-01」の打ち上げが決まってもまだ宇宙に居る様子に、これは一緒に宇宙空間にいることもあるかもしれない! とはいえ、大気圏再突入間際の高度にいる「RSP-00」とISSとほぼ同じ軌道の「RSP-01」とは同じ高度でめぐりあうことはないのですが、「RSP-00」はいつ大気圏に再突入するのかのオッズも盛り上がっていました。
そしてなんと「RSP-01」が宇宙空間に放出された3月14日に、「RSP-00が大気圏に再突入したようだ、もはや軌道上にない(no longer on orbit)」との情報が入ったのです。まるで「RSP-00」が「RSP-01」に、じゃあバトンを渡したよと言って大気圏に突入して流れ星になったという状況に背筋がぞくっとしました。
サラリーマンただいま人工衛星運用中!
リーマンサット・プロジェクトにもRCCがあります。
といっても、JAXAの総合司令棟(Takesaki Range Control Center; RCC)ではなく、リーマンサット・コントロール・センター(Rymansat Control Center; RCC)ということで、リーマンサット・プロジェクトの人工衛星の円滑な運用を行うための通信設備などがある地上局です。
地上局運用システムも01の開発メンバーがオリジナルで作成しています。
運用を行うメンバーは、アマチュア無線3級の免許こそ持っていますが、だからといって無線のプロではないですし、人工衛星運用についての理解もあまりよくわかっていないど素人な人も多いです。そんな運用メンバーでも簡単に運用ができるように、わかりやすく、操作もし易い運用システムを構築するのは結構大変なはず。
システム開発メンバーは、テスト段階から、素人からの嵐のような質問にも全く嫌な顔もせずに受け答えながら、こつこつと作り上げていました。そんな開発者メンバーの優しい性格がにじみ出る、誰もが運用できるユーザーフレンドリーなシステムになっています。
そしていざ運用という時にサラリーマンが主体の人工衛星運用でネックとなるのは、普段働いている時間帯は運用できないということです。
これは仕事ではなく、趣味でやるのだから仕方ないのですが、出勤前の早朝、昼休み、帰宅後の夜、そして週末(土日)と祝日にしか運用ができないという制限がつきます。
とはいえ、意外と運用メンバーが多いので、高度が高い条件が良いパスを優先した運用スケジュールを組みながら、2人1組で運用を続けられていますし、連休などには「運用祭り」というくらい、ここぞとばかりに運用回数を重ねていました。
人工衛星運用を始める前、神奈川県にいる私は東京都江戸川区の地上局まで行くのに片道2時間くらいかかるので、昼夜問わず当番制でまわすとなると担当できる機会はほとんどないなと思っていました。しかし、この運用システムは、なんと自宅から遠隔操作ができます! つまり、運用メンバーは、地上局まで毎回駆けつけなくてもいいので、北海道にいても九州にいてもコマンド(人工衛星への指令)を打つことできます。スケジュールさえ合えば、どこからでも思う存分運用ができるという意味で、運用機会を広げることになり、人工衛星運用をぐっと身近なものにしています。
そして、3月から9月まで具体的にどのような運用をしてきたのかという経過についての詳しいお話は、次回の【衛星運用も山あり谷あり:こちら人工衛星RSP-01(前半期レポ)】でレポートします!
そのまた未来へ、RSP-01プロジェクト、まだまだ新たなチャレンジを続けています!
宇宙デビューしたRSP-01運用メンバーも募集しています。参加についてはこちらから。
【この記事を書いたメンバー】
Sahoko Kito
広報部 技術広報課長、技術部RSP-01プロジェクトC&DH系、人工衛星運用オペレーター。
趣味は宇宙開発、宇宙教育、星空案内、美味礼賛。7つの海を渡るのが夢。