リーマンサットRSP-03開発メンバーのMです。
人工衛星の信頼性の話として、以前X線試験の記事を書きましたが（RSP-03の信頼性確保に向けたX線試験トライアル）、今回は放射線試験の話をしたいと思います。
長くなりそうなので5回に分割してお話ししたいと思います。

連載目次

第1回　人工衛星と放射線の影響の歴史
第2回　放射線対策の研究動向
第3回　商用衛星・ロケットの放射線対策
第4回　リーマンサットの衛星の放射線対策
第5回　リーマンサットの放射線試験結果

※RSP-03で放射線試験を行うにあたって、各種文献をもとに調べたことを備忘録的に記しています。内容が100%正確である保証は出来ませんので、あらかじめご了承ください。

第1回　人工衛星と放射線の影響の歴史

そもそも何のために放射線試験をするの？

私たちが打ち上げている超小型衛星は上空400kmの地球周回軌道を回っているのですが、地上との大きな環境の違いとして、宇宙線を直接浴びてしまうという事が上げられます。
宇宙線とは、高い運動エネルギーを持つ放射線の総称で、ヘリウムの原子核からなるα線や原子核が崩壊する際に放出された電子のβ線、同じく原子核が崩壊する際に放出される電磁波のγ線など種類はいろいろありますが、どれも半導体等の人工衛星に搭載される電子部品に悪影響があることが判明しています。

代表的な不具合としては下記の2つが挙げられます。
①宇宙線のもつ電荷を受けて半導体の回路内のデータが一時的に反転するソフトエラー
②宇宙線によるダメージが蓄積して半導体内部の電流の漏れが大きくなり故障につながるトータルイオンドーズ

これらの不具合が発生すると人工衛星が正常に動作しなくなってしまうため、使用する電子部品が放射線を浴びても正常に動作することを打ち上げ前に確認しておかないと、運用中に故障して大変なことになってしまいます。

ところで、放射線が半導体等の電子機器に悪影響を与えることは、いつどのように判明したのでしょうか？
歴史的な経緯を調べてみたところ、1962年にはすでに半導体に放射線を当てた時の影響について研究されていたようです[1]。

人工衛星への放射線の影響が議論されだしたのは1971年。
アメリカのTRW社の通信衛星の状態異常の分析がきっかけでした。
衛星の状態異常が発生するときにはオーロラが発生するような強い磁気嵐も同時に発生していることが多いという記録が残っています[2]。

(AI_Aurora.png / AIによる自動生成)

そうして人工衛星の状態異常は、オーロラを発生させるような強い宇宙線、例えば太陽フレアによる放射線の影響を受けているのではないかという議論がされるようになり、1970年代を通して半導体に放射線を照射したときの影響についての研究が進んでいきました。そうして現在までの放射線試験対策が確立されていったのです。

参考文献
[1] J. T. Wallmark and S. M. Marcus, “Minimum size and maximum packing density of nonredundant semiconductor devices,” Proc. IRE, vol. 50, no. 3, pp. 286–298 (1962)
[2] RGA Analysis: Findings Regarding Correlation of Satellite Anomalies with Magnetospheric Substorms, and Laboratory Test Results, Final Report, (TRW Report
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